医療薬学専門薬剤師、ってなに?(「認定」から「専門」に格上げ?で難易度UPもおすすめしたい専門薬剤師)
日本医療薬学会の専門薬剤師制度は4本柱にリニューアル
日本医療薬学会は2020年度から専門薬剤師の制度を見直しました。
これまでは日本病院薬剤師会から移行された「がん専門薬剤師」と、そのあとにはじめてオリジナルで創設した「薬物療法専門薬剤師」の2本立てでした。
そこに、今回新たに2つの専門薬剤師が加わりました。 1つは、これまでも何度か紹介している「地域薬学ケア専門薬剤師」。
そして、のこりもう1つが、今回紹介する「医療薬学専門薬剤師」です。
「医療薬学」の「専門」とは???
「医療薬学」の「専門」とは、はて???
という感想をお持ちの方もいらっしゃるとかと思いますが、ほかの3つの専門薬剤師は「実務家」「臨床家」を認定する制度なのに対して、この医療薬学専門薬剤師だけは、学問としての「医療薬学」で一定のスキルを有する人を認めていこうという制度です。
日本医療薬学会では、以下のように定義しています。
「医療薬学専門薬剤師」とは、医療薬学に関する高度な知識及び技能を有し、自ら研究活動を推進することで医療薬学の進歩及び普及に貢献できる者として、本学会が実施する医療薬学専門薬剤師認定審査に合格した者をいう。
このように、専門薬剤師4本柱のうちの1つではありますが、この「医療薬学専門薬剤師」は、ほかの3つとは少し離れたところに位置しています。
そのため、認定要件にも特徴があります。
医療薬学専門薬剤師制度は実務家・臨床家向け
学問とか、研究とか、いや、もう・・・と言わないでください。
誰向けか?というと、これもまた「実務家」「臨床家」向けの制度なのです。
要件には 患者アウトカムや医療の質向上に貢献した臨床実績
といったものもの掲げられています。
臨床の実績は臨床の人でなければ、挙げることはできません。
(ただし、のちに触れますが、この要件は2024年までの暫定要件には含まれていません)
そして、この医療薬学専門薬剤師制度は、もともと日本医療薬学会認定薬剤師制度から、発展的に創設された制度なのだということもあります。
名称が「認定」から「専門」になることで、認定のための要件は、従来の認定薬剤師に比べれば、まあまあ厳しいものになりましたが、これはぜひ臨床家の先生方に目指していただきたい専門薬剤師の一つになります。
それでは、医療薬学専門薬剤師になるための要件を確認していきましょう。
医療薬学専門薬剤師の申請要件(認定要件)
- 日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格と識見を備えていること。
- 薬剤師としての実務経験5年以上有すること。
- 申請時において、引き続き5年以上継続して本学会会員であること。
- 「日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師」、「日本病院薬剤師会日病薬病院薬学認定薬剤師」、「日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)クリニカルラダー5以上」、いずれかの認定を受けていること。
- 本学会が認定する各領域の研修施設において、本学会の定めた研修ガイドラインにしたがって、1年以上の研修歴を有すること。
- 別に定めるクレジットを5年で50単位以上取得していること。
- 専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義に1回以上参加したこと。
- 本学会の年会に1回以上参加したこと。
- 自ら実施した5年の患者アウトカムや医療の質向上に貢献した臨床実績10件を提出すること。
- 以下の研究活動の条件を満たすこと。
学会発表:医療薬学に関する全国学会あるいは国際学会での発表が2回以上あること。本学会が主催する年会において本人が筆頭発表者となった発表を含んでいること。
論文:医療薬学に関する学術論文が2報以上あり、本人が筆頭著者である論文を1報以上含むこと。学術論文は、国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に複数査読制による審査を経て掲載された医療薬学に関する学術論文あるいは症例報告であること(編集委員以外の複数の専門家による査読を経ていない論文は本条の対象外)。 - 本学会が実施する専門薬剤師認定試験に合格すること。
2020年~2024年までの申請には過渡的措置が適応
新たな制度の立ち上げ(この場合は制度の移行)にあたり、旧来の要件に合わせて準備を重ねてきた人たちには青天の霹靂です。そのため、一定期間は、要件を少し緩めて、まずは皆さんに専門薬剤師になっていただくための特別期間が設定されます。
(医療薬学専門薬剤師認定制度規程細則より抜粋一部改変)
2024年度まで実施される「医療薬学専門薬剤師」及び「医療薬学指導薬剤師」の認定申請に限り、次の過渡的措置を講ずる。
(医療薬学専門薬剤師の認定に係る暫定認定の要件)
認定制度規程の第4条の2については、以下のとおり取り扱うこととする。
・要件1~4、6、10、11を全て満たす者で、認定委員会の選考を経て、理事会で承認された者。
・要件4 については、「日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師」であってもよい。
・要件6 については、20単位以上取得していれば良いこととする。
・(省略)
これを反映すると、こういうことになります。
過渡的措置を含めた医療薬学専門薬剤師の申請要件(認定要件)
- 日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格と識見を備えていること。
- 薬剤師としての実務経験5年以上有すること。
- 申請時において、引き続き5年以上継続して本学会会員であること。
- 「日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師」、「日本病院薬剤師会日病薬病院薬学認定薬剤師」、「日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)クリニカルラダー5以上」、いずれかの認定を受けていること。
本学会が認定する各領域の研修施設において、本学会の定めた研修ガイドラインにしたがって、1年以上の研修歴を有すること。- 別に定めるクレジットを5年で
50単位20単位以上取得していること。 専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義に1回以上参加したこと。本学会の年会に1回以上参加したこと。自ら実施した5年の患者アウトカムや医療の質向上に貢献した臨床実績10件を提出すること。- 以下の研究活動の条件を満たすこと。
学会発表:医療薬学に関する全国学会あるいは国際学会での発表が2回以上あること。本学会が主催する年会において本人が筆頭発表者となった発表を含んでいること。
論文:医療薬学に関する学術論文が2報以上あり、本人が筆頭著者である論文を1報以上含むこと。学術論文は、国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に複数査読制による審査を経て掲載された医療薬学に関する学術論文あるいは症例報告であること(編集委員以外の複数の専門家による査読を経ていない論文は本条の対象外)。 - 本学会が実施する専門薬剤師認定試験に合格すること。
4項目の要件が事実上、消えました。
そして、1項目は半分以下の要件に緩和されました。
すごいラクチンということはないですが、従来の「認定薬剤師」のときとさほど変わらないくらいにはなっていると思います。
なお、「日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師」は、制度としてはもう終了して、「日本病院薬剤師会日病薬病院薬学認定薬剤師」の制度に引き継いでいるので、現在この認定を取得している人(正直もうそれほどいないと思います)への救済策になります。
取得のハードルは4つの専門薬剤師の中では低め?
ハードルが低い?と言ってしまうのは、誤解を生じる言い方ですが、正規の要件を比較すると、ほかの3つの専門薬剤師制度に比べると少しだけ低くみえます。個人の価値観にもよるので、絶対にこれが一番ですよーとは言えないですね。
2020年に関して言えば、地域薬学ケア専門薬剤師の暫定&緩和要件が、とても低くなっていて、そちらのほうが“圧倒的”になっています。
新制度:地域薬学ケア専門薬剤師のスタートアップ情報が開示 | なりゆき薬科大学
2020年5月25日付で日本医療薬学会「地域薬学ケア専門薬剤師」のスタートアップ情報が開示されました。保険薬局における薬学管理の重要性を評価できるよう、主に保険薬局の薬剤師を対象として創設された制度です。
地域薬学ケア専門薬剤師の認定要件がさらに緩和:2020年限定
地域薬学ケア専門薬剤師の認定要件は、もともと数年間は暫定措置による認定となり、要件の一部が緩和されていますが、今回さらに、新型コロナウイルス感染拡大による影響を加味した追加の「救済策」が発表になりました。
それでも、最初に目指す大きな目標としては「アリ」
実務家向けの制度ではありますが、「主に病院薬剤師向け」とか「主に薬局薬剤師向け」とかの勤務形態や職場の前提は制度設計上設定されていないので、「医療薬学」にかかわると自認できる人なら、「まずは・・・」的な目標としては、適していると思います。
この記事の執筆者
なりゆき専門薬剤師(諸般事情により匿名)
現役の病院薬剤師(勤務歴20年)
複数の認定薬剤師・専門薬剤師を取得、活動歴あり