薬剤師の「症例報告」は大きく分けて3種類。目的によって書き方・伝え方も変わる

がん専門薬剤師 がん薬物療法認定薬剤師 地域薬学ケア専門薬剤師 専門薬剤師 認定薬剤師(領域)

15年ほど前までは、「薬剤師」と「症例報告」はあまり密接な関係ではなかったと思います。

しかし、現在の薬剤師業務においては、いろいろな場面で「症例報告」は目にするし、また、直接自ら報告することもあります。

その「症例報告」ですが、広い意味と、狭い意味があり、すべてが同じ意味になるわけではありません。

ときに、この意味をはき違えて医療者間で連携がちぐはぐになってしまうこともあります。

症例報告しようって言ったよね?

えー?報告しましたよーっ

???

???

そんな事態を回避するために、この記事では「症例報告」にいくつか種類があることを知り、それがどんな内容なのか、どんな意味をもつのかについて解説します。

症例報告=症例+報告

「症例報告」はその名の通り「症例」の「報告」です。

「症例」は一般的には「一人の患者さん」のことで、その患者さんの治療(薬物療法)に関する情報伝達のことを「症例報告」と呼ぶものと考えてください。

1つの名称(名詞)が持つ意味は、根本では同じだけど、業界内での解釈としては異なるもの、というのが、医療従事者の世界では多いような気がしています。

似たようなダブルミーニングに「学会」がありましたね。学術団体・組織の名称としての「学会」と、その組織が主催してどこかの大きな会場にみんなで集まっていろいろ発表する=学術集会の呼称としての「学会」があることを説明しました。

細かく分類するともっと多くなりそうですが、ざっくりと「3つ」くらいで考えるといいと思います。

  1. その患者さんの治療やサポートの方針を立案し共有するための報告
  2. 学術集会や論文での報告(発表)
  3. 認定薬剤師や専門薬剤師を申請する際の報告

それぞれについて、少し説明を加えます。

治療やサポートの方針を立案し共有するための報告

1.は実地医療における重要な共有ツールです。

症例カンファレンスでの口頭レビューから、紹介状・診療情報提供書まで多く含まれるものです。

薬剤師が関与することとしては、在宅連携にかかわるカンファレンスあたりもそうです。

とはいえ、薬剤師はプレゼンテーションする側より聞く側のことが多いようにも思います。

学術集会や論文での報告(発表)

2.はいわゆる公表(Publication)される症例です。
自分が直接かかわらない症例を見聞きすることができる数少ない機会です。

多くの人が目にするので、患者が特定されないような配慮が求められ、場合によってはご本人から同意を取る必要もあります。

科学的な考察と評価を得られる重要なエビデンスの一端となります。

EBMの学習の初期段階で「エビデンスレベルの低いもの」と紹介されてしまうので、なんかゴミ同然みたいに思われてしまうのではないかと常々危惧しています。

学習を進めていくと、それでもなお症例報告の意味は大きいことが分かるのですが、そこまでたどり着くにはちょっと時間が必要な方が多いです。

一方で、学会発表や論文報告は、定められたルールやお作法があるので、少しハードルが高くなる印象が強く、敬遠してしまっている人も多いかと思います。

それでも「エビデンス」とするためには、この「症例報告」にしておくことは重要になります。

SNSは、気軽に発信できるのは長所ですが、その客観性という点では劣ることになります。

多くの薬剤師の方々に、この「症例報告」をしていただきたいなあと考えています。

認定薬剤師や専門薬剤師を申請する際の報告

3.は認定薬剤師、専門薬剤師の認定要件として求められるものです。

その薬剤師の知識や経験を裏付けるものとして提出を求められるもので、ほとんどの場合で20例~50例を用意することになります。

書式や文字数に制限があるほか、認定の制度によっては原疾患が限られていたり、記載するべき内容にも若干の違いがあります。

具体的にいうと、同じ「がん領域」の認定制度である「がん専門薬剤師(日本医療薬学会)」「がん薬物療法認定薬剤師(日本病院薬剤師会)」「外来がん治療認定薬剤師(日本臨床腫瘍薬学会)」では、書式も制限文字数もことなり、記載例からうかがえる求められる内容も違いを感じることができると思います。

これは、申請する人が直接書くもので、かつ、申請者一人当たりの報告数が20例~50例ですから、これまでに薬剤師がみずから行う「症例報告」は、恐らくこれが一番多いのではないかと思います。

認定・専門の症例報告はブラックボックス?

しかしながら、この「症例報告」は、基本ほとんど「日の目」を見ません。

なぜなら、自分(および自分の指導者・管理者など)とそれを審査する人しか見ないからです。
だからといって、全世界に公開されてしまたったら、それはそれで大変恥ずかしい思いをしますね。結果的に、不合格判定だったりしたら、超へこみます。

そんなわけで、ほぼ非公開となる、3番目の「症例報告」の正解?がどんなものなのか、つかめないというのが非常に厄介なのです。

多くの人が、ほぼ同じように言います。

どうやって書けばいいかわからないんです

症例報告の記載例が提示されていることもある

認定団体によっては、記載例を提示しているところもあります。

がん薬物療法認定薬剤師:「がん患者への薬剤管理指導実績の要約」の記載例

外来がん治療認定薬剤師:「がん患者への薬学的介入実績の要約」の書き方(記入例)

この公開情報を知らいないという方も結構いらっしゃるんですよね。
正直もっと見たいという思いに駆られますが、まずはここをさんこうにしてみてください。

ちなみに、これは筆者の個人的な見解ですが、この記載例は、おおよそ「75点くらいの出来」のものを提示しているように思います。

もっと上(より洗練されたもの)があるような気がします。
それくらいの感覚で、参考にしていただるといいと思います。

ただ、やっぱりちょっと、数が少ないですよね。
もうちょっと見たいというその気持ちはわかります。

がん専門薬剤師は症例記載に関するシンポジウムがある

日本医療薬学会のがん専門薬剤師に関していえば、毎年の年会(学術集会)で、症例の書き方に関するシンポジウムを開いているので、参加してみるのはおススメです。

毎年、会場に入りきれないくらいの聴衆がきて、皆さん殺気立って聞いていますが、今年はオンライン開催なので、落ち着いて聞けますし、繰り返し聴けるので、さらにさらにおススメになりますね。


多分これです。

シンポジウム27
がん専門薬剤師の介入で安全で効果的な治療を実現する
~進化するがん治療でがんとの共生をめざす時代~

ちょうどいいアンカーがなかったので、画面を下のほうにスクロールしてたどり着いてください。

とはいえ、この「症例報告」最大の恐怖は、その内容で認定の可否(合否)が判定されることです。

本当は「中の人」に聞ければ、聞いてみたい

一番いいのは「中の人」に話を聞くのがいいと思います。ただ、そんな人に会える機会はそうそうありませんよね。

それに、「中の人」も開示してよい情報は限られているかもしれませんし、あなた一人だけの相談に乗るわけにもいかない(ほかのひとだって聞きたいと思っている)ので、そんなに懇切丁寧なご指導を頂くことは難しそうです。

あとは、経験者に教えを乞う

この審査を通過して、晴れて認定を取得した人は、じっさいにどうやったのかを教えてもらうのが近道だと思います。

特に、この症例報告で認定の合格(というのでしょうか?)を2回以上受けているひとだと「再現性」の保証が厚くなりますね。

なりゆき薬科大学でも、できるだけヒントを出していけるようにしたいと思います。

この記事の執筆者

なりゆき専門薬剤師(諸般事情により匿名)
現役の病院薬剤師(勤務歴20年)
複数の認定薬剤師・専門薬剤師を取得、活動歴あり